PROFILE

浜田 正憲

浜田 正憲 (はまだ・まさのり)

コンピテンシーコンサルティング株式会社代表取締役社長

コンピテンシーコンサルティング株式会社代表取締役社長。社会保険労務士。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。
1985年神戸大学卒業。ジョンソン・エンド・ジョンソン、ヒューレット・パッカードの人事部門で計23年勤務(うち、人事部長9年)。 IBM(旧PWCコンサルティング)で経営コンサルタントを務め、2011年に早稲田大学ビジネススクールMBA(経営学修士)取得。 同年6月「コンピテンシーコンサルティング株式会社」を設立。 「経営と人事の統合」を目標に、会社と社員の成長に貢献することを使命とする。

納庄 国英

納庄 国英 (のうしょう・くにひで)

株式会社ビルワークホールディングス代表

株式会社ビルワークホールディングス代表取締役社長。株式会社ビルワーク・ジャパン代表取締役社長。株式会社TKPプロパティーズ代表取締役社長。
1975年(仙台市)生まれ。1998年東北学院大学経済学部卒業。1998年株式会社ビルワーク入社。2014年には公益社団法人仙台青年会議所第63代理事長を務める。
ぞうきん一枚で起業した祖父のチャレンジ精神を受け継ぎ、仙台から全国そして世界に向け、 経営はもとより「人々の幸せ」に資する高品質のサービスを拡げるべく奮闘中。

会社というシステムは「人」を守るためにあるのか、それとも縛るためにあるのか。 シリーズ第2弾となる今回は、近年、日本企業がさまざまな課題を抱える「人事」「人材戦略」がテーマ。
当社の人事評価制度の構築に参画・協働していただいているコンピテンシーコンサルティング株式会社・浜田正憲社長をお迎えし、働くうえでの「心地よさ」について探ってみました。

SECTION.1

人事制度の役割とは

会社のビジョンとか、社員に託す希望とか、
社長の思いを人事制度として「翻訳」する、
それが私の仕事ですね (浜田)


納庄

「人事」と聞くと、どうしても硬い印象を持ってしまう方も多いと思いますが、でも、よくよく考えてみると「人」そのものと向き合う分野なんですよね。 言い換えれば、働く人の思いや感情といったエモーショナルな部分に対して、職場の制度やシステムをもってアプローチする仕事でもあるわけです。 今回の浜田社長とのセッションでは、働き方における“心地よさ”と“制度”の折り合い、または未来像を見つけることで、 人材不足のなか厳しい市場環境で闘う“経営者”と、そして激変するいまの時代を生き抜く“働く人びと”の、その両者に新たな気づきや勇気を提供できたらなと考えています。

さて、浜田社長は「経営と人事の統合」を活動の目標に掲げておれらます。 まずはそうした独自のミッションからお聞きしていきたいと思いますが、その背景として、起業までの経緯を教えてください。


浜田

もう30年ほど前のことになるのですが、大学卒業後に横河ヒューレット・パッカード(現在の日本ヒューレット・パッカード)に入社しました。 そして人事部に配属されて18年ほど勤めました。事業会社の人事の経験はもうひとつあって、製薬会社のジョンソン&ジョンソンの人事部長も務めました。 人事部長の経験が合計で9年ほど。経験で培った人事の専門性をもっと深めたいと思いまして、コンサルティングファーム(旧PwCコンサルティング)に入り、 そこでさまざまな分野のお客様に対して人事の専門性を提供しながら修行を積みました。その後に早稲田のビジネススクールに1年ほど通って、そして起業しました。


納庄

企業組織における人事担当者から、社会における人事の専門家になられたわけですが、 そのときのテーマ…つまり浜田さんがやりたいと思ったこと、大切にしたいと考えたのはどんなことだったのでしょうか。


浜田

中高年の再生ですね。あるいは覚醒といってもいいのかな。若いころから人事に携わるなかでずっと感じていたことなんですが、 中高年になると仕事への意欲も会社への貢献度も薄れていく人が多いんです。 なぜだろうとずっと疑問に感じていました。これを変えたいと、ずっと思っていました。 中高年のモチベーションをいかに上げるか、これは実際に多くの企業の課題でもあるんですね。


納庄

ビルワークでも、女性の活躍促進や外国人スタッフの採用と併せて、高齢者の再雇用を進めているのですが、 実感として思うのは、やはり中高年の方々というのは人生経験が豊かなんです。 そこを活かすことで活力を引き出すことができたら…つまり中高年の再生、覚醒を促すことができれば、それは組織の拡大につながると思うし、 中高年の人たちの生活の安定とか人材不足の解消につながれば、社会的にも貢献できると思いますね。

ところで、HPを拝見すると浜田社長は、しくみと現場、さらには人事と経営が分離していることを問題にしておられますが、 やはり日々の業務のなかで意識的に取り組んでおられるのでしょうか。


浜田

そうですね。ビルワークさんのプロジェクトでも大切にしていることなんですが、社長が社員に求めたいこと、期待していることは各社それぞれ必ずあって、 その思いをいかに人事制度として具体化するのか、この点を私はいつも大切にしています。社長の思いを人事制度として翻訳するのが私の仕事ですね。

しくみや制度というと、どうしても人びとの「思い」とは別のところで機能しているように感じてしまうのですが、 実際には、経営者や現場で働く人たちの感情を相互に翻訳する機能のひとつとして人事制度は使えるんです。


納庄

なるほど。たしかに経営者は社員に対して、そんなのできるでしょ…とか、それはできてあたりまえでしょ…とか思いがちですけど、 それは経営する側が一方的に求めていることであって、働く側が求めていることではないですからね。 ただ、会社が成長するうえでどうしても必要なことである場合、働く側であるスタッフのみんなにはなんとか納得してもらわなくちゃいけない。 そんな場面で機能するのが人事制度だったり、評価制度だったりするんでしょうね。 その構築には、働いている人が求めていることも重要になってきますから、まさに「翻訳」ですね。


浜田

社長がどういう判断基準で自分たちを評価しているのか、働く側も不安だと思うんです。だから、やり方を間違えると「好き嫌い」に映ってしまうんです。 でも実際には、多くの社長は独裁者でもないし、そんなに無茶苦茶なことを要求しているわけでもないんです。 人事のしくみをうまく活かせば、普通に言語化できることなんです。



SECTION.2

人と組織の関係性はどう変わっていくのか

多様性をあたりまえのものとして認め合う、
そんな大家族のような経営をしていきたい
という思いが私にはあるんです (納庄)


納庄

経営者の思いが人事制度として「翻訳」されると、働く人たちはその思いを共有できるわけですから、 それは日々の意欲とか働きやすさ、つまり心地よい職場につながっていくのかもしれませんね。


浜田

少なくとも期待されていることは社員に伝わると思います。それが心地よさにつながるかどうかとなると、なんともいえませんね。 心地よい職場…というと、ゆるい関係性でつながる弱い組織、あまい組織という一面もありますから。 そのあたりのバランスの舵取りをどうされているのか、ぜひ納庄社長にお聞きしたいですね。


納庄

大家族のような経営をしたいという思いが私にはあるんです。もちろん、それはあまいんじゃないか…とか、そんな会社は成り立たない…という意見も他方にはあると思うのですが、 家族というのは究極のコミュニケーションというか、その人のクセも、悪いところも、ぜんぶ受け止めて、そしてまとまっていくんですよね。 私のいう「大家族のような経営」というのは、社内の関係性、つまりコミュニケーションをそういうふうにしていきたいという思いなんです。

ただし、会社というのは成長を目指さないといけない。しかも働いている人たちはそれぞれが異なった価値観で仕事と向き合っている。 そこに人事評価や社内等級をきちんと当てていく。例えば、自分自身のライフワークや社会的な目的のためにこの会社でスキルアップして退社する。 それ、ありだと思うんです。そういう人たちは会社に成績を残してくれるんです。だからこそ、上を目指す人には評価制度をきちんと当てていかないといけない。 一方で、自分はルーティンワークのなかで生きていくんだと考える人もいるので、そこには考課制度をきちんと当てていく。 これを会社の運営としてみると、収入に対して支出が伴っている状態になるんですね。

スキルアップを目指す人、長く安定して働きたい人、それぞれの価値観…つまり生き方を認めたうえで「大家族」として受け入れる、これを可能にしてくれるのが人事制度なのかなと思うんです。


浜田

人と組織の関係性の今後…ということでいうと、よく聞かれる展望としては、もっと契約的になっていくだろうという予測があります。 人は昔からそれぞれに事情を抱えながら働いてきたし、現代もいろいろな事情…介護や子育て、共働きといった制約のなかで働いているわけですが、 これら個々の事情について契約的に合意を交わしたうえで働くようになるだろう…という未来予測ですね。 「契約」と聞くと冷たい感じを受けますが、これって、個人的な背景まで理解しながらお互いを活かし合うということですから、まさしく「家族的な関係」だと思うんです。 個々人の事情や条件を認め合う、補完し合う、活かし合う、これからはそういう社会になっていくのかもしれません。

そして、最近、人事の世界でよく聞かれるのがダイバシティ&インクルージョン。 多様性を内包する、多様性をあたりまえのものとして認め合う、それには互いに理解しあうことが大切…という考え方ですね。 そういう観点からも、納庄社長のいう家族的な経営はとてもいいと思うし、未来型の強い組織になっていくと思いますね。


納庄

浜田社長は外資系企業での経験をお持ちですが、多様性との向き合い方やその受け入れ方ということでいうと、やはり海外の企業のほうが進んでいるのでしょうか。


浜田

そもそもの文化がダイバシティの上に成り立っている国がほとんどですからね。 異なった価値観や特別な事情を抱える相手を理解して受け入れることは、彼らにとって、仕事をするうえでの大前提なんです。 他方、価値観の近い人たちが集まってできたのが日本の大企業ですから。 そのあたりの“苦手”がこれからの“弱点”になっていかなければいいのですが。

ビルワークさんは海外にいくつも拠点がありますから、現場で、海外と日本のそういう違いを感じる場面もあるんじゃないですか?


納庄

半年ごとに支店をラウンド(視察とヒアリング)して、最後に懇親パーティを開いて、そして一人ひとりの考えを聞いているんですが、海外の人はきちんと主張してきますね。 確固とした考えをもって仕事と向き合っている。例えば、ビルメンテナンスの作業スタッフなんですけど、営業をやってみたいとアピールしてくる人がいる。 当社が出店しているのはカンボジアとベトナムとシンガポールですが、国の成長に合わせてサービス業が全体的に盛り上がりをみせていますから、 友人が別なところで働いて出世したり、高給をもらったり、日常的にそういうことが起きているなかで、多くの人が自分の価値を高めようとしている。そういうタームなんです。 だったら、そこをどんどん伸ばしていこうというのが私の考えですね。新しいポジショニングだけじゃなくて、新しい仕事を作ったっていい。 なにしろ、いままでなかったものを受け入れる文化を彼らは持っていますから。


浜田

伸び盛りの国においては、伸びる、伸ばすという「環境」を作ることが企業の役割のようですね。 同時に、そこで生まれる多様性が、「組織」としての企業のあり方を変化させているのも一方の事実といえそうです。


納庄

それにしても、いろんな人がいますよ。いろんな人とふれあって、相手の立場になって考えて、そういうことをずっと続けていると、許容する幅がどんどん広がっていくんです(笑)。 もう多少のことでは驚かなくなるんです(笑)。それって家族なんですよね。


浜田

家族は見捨てられないですからね。



納庄

そういうことなんです。親心って、子供が生きていてくれるだけいいんです。母親からそう言われたことがあるんです。どんなにダメな息子でもかわいいんですね(笑)。


浜田

納庄社長のいう「家族的」がだいぶ腑に落ちました。

SECTION.3

パフォーマンスの伸びしろと評価システム

経営者の言い訳のために
人事制度を使ってほしくないんです (浜田)


納庄

日々のコンサルテーションのなかで、この会社はいい組織だなと思うときの特徴やバロメータにされていることってありますか?


浜田

成長している企業、特に成長の方向性が示されている組織はイキイキしてますね。 別な言い方をすれば、いかに社員を成長させるか、いかに成長する力を引き出すか、そういう部分で知恵をしぼっている企業はいい会社だなと感じます。 社員にフォーカスすると、会社が成長しているから自分も成長できる、そういう活気なんでしょうね。そんな活気が感じられる組織は好きだし、心から応援したいと思いますね。


納庄

浜田社長が作り上げる評価システムは「人」を活かすシステムなんですよね。 特に「フィードバック・システム」はとてもいいと思いました。上司が、業務上のジャッジだけじゃなくて、 部下を成長へと向かわせるようなフィードバックもしていきましょうというこの人事システムは、現場に新たな活力をもたらすと思います。 会社がより元気になる。



浜田

上司と部下というのは日々話し合っているんです。仕事の話はしているし、業務上のジャッジも常に下されている。 でも、個人の成長、さらには会社の成長をゴールとした場合、ただのジャッジでは意味がないんです。 もちろん最終的には本人が変わらないといけないんですが、上司からのフィードバックを受け止めて、意味を理解して、そして次の努力をしていくという「成長の過程」を作ってあげる必要があるんです。 部下はそれによって自分が会社から期待されていることがわかるし、何が足りないのかもわかる。


納庄

成果の品質を上げるために必要なことを同じ目線で考えて、さらに指導する目線を持ちましょうということですから、これは評価する側も成長するしくみかもしれませんね。

ところで、これまでうまくいかなかったケースはありますか?


浜田

初期の提案段階で社長から人材を育成したいと言われて、いいなと思ってプロジェクトを始めたら、 実はもっと人件費を削減したいとか、うちの会社は給与水準が高すぎるとか、そういう話になって「あれ?!…そっち?」と思ったことはありましたね。 いっきにやる気が失せまして、それをやるならもっと大義名分を明確にしてきちんと伝えたらどうですかと言ったんですけど、それは嫌だと言うんです。 ようするに人事制度をカモフラージュに使おうとしていたんですね。正直、そんなのはやりたくないですよね。私は、経営者の言い訳のために人事制度を使ってほしくないんです。 組織と個人が相互に影響しあって、共に成長していくためのツールとして使ってほしいんです。

SECTION.4

いまどきの人材事情

経営者は部活のリーダーみたいなものですよね。
四番は誰かに任せて自分は運営に徹する (納庄)


納庄

浜田社長が新卒で外資系企業の人事部に配属されたときと比べて、昨今の人材市場とか、雇用環境とか、そのあたりの変化についてどんなことをお感じになられていますか?



浜田

私が社会人になったころは終身雇用の時代で、「会社に人生を捧げるんだ」という思いというか、覚悟というか、そういう空気感が社会にはありましたけど、いまはそうじゃなくて、 自分が働く意味を見せてくれるところじゃないと、たとえ大企業であっても「ここでは働きたくない」となってしまう。そういうことを働く側が主張する時代に入ったのかもしれませんね。


納庄

世代による価値観の違いでしょうか。


浜田

時代性ということでいえば、例えば大学のキャリア教育などはそのひとつといえるかもしれませんね。 自分は社会で何をやりたいのか、何に向いているのか…という問い掛けというか、導きというか、昔はそういう教育はなかったのは事実ですから。

もうひとつ、私が実感する部分としていえば、会社に縛られたくない、そして自分も何らかの専門性を身につけて生きていきたいという気持ちが昔よりもずいぶん強くなったように感じています。 私は、これはこれでいい面があると思うんです。20年働いたけど何も残らなかった…というよりは、 働いたぶんだけ「私はこういうことができます」と言えるほうがいいですからね。いずれにしても、これからの人たちは、そういう人材になっていくのかもしれません。


納庄

地方で実感する地元中小企業の人材事情についていうと、私のまわりでは、大企業である程度のスキルを身につけた人材をなかなかスカウトできない…そういう悩みを抱えている経営者が多いですね。 いかにして優秀な人材を中央から迎え入れるか、それが地方企業の大きな課題のひとつといえそうです。


浜田

それはお金の問題ですか? それとも、その人たちが魅力に思う仕事を提供できないのか、原因はどこにあるのでしょうか。


納庄

過去のケースでこういう条件を提示されたことがありました。 御社が求めるスキルはあるけれども御社の経営には関わりたくない、ただし、環境さえ提供してくれたら御社のために働きますと。…お金じゃないんですね。 その人にマッチする「環境」を提示できるかどうか、それが地方の中小企業の経営者には求められているんだなと、そう思いました。 これができるかできないかで、優秀な人材を東京などから迎えられるかどうかが決まるんです。


浜田

一種のダイバシティですね。求めているものを…言い換えれば労働条件を提供する。その個人に応じた「環境」を提供する。労働条件を作っていく行為がお互いの理解につながるんですね。 それは本人の意思を尊重するということでもありますから。


納庄

その場合、会社規模がどうとか、地方だからどうとかよりも、働く環境に余白があるかどうか、そちらのほうが重要になってくるようですね。 優秀なんだけれども特有の事情のために市場とマッチできていない、そういう人と巡り会ったとき、一緒に働けるチャンスは「余白」にある。 その人の求めていることと、その理由を、深く知れば知るほどうまくチームビルドできて、組織の活性化と利益向上につながる。 これからの会社は、それで大きく飛躍したり、逆に小さくしぼんだりするのかもしれません。

だからこそ経営者はひたすら運営に徹する。もう部活のリーダーみたいなものですよね。俺は四番はやらないよと。君がやってくれと。 その代わりに、面倒くさいこと…練習試合の調整とか、バスの手配とか、そういうことはぜんぶリーダーの俺がやる。だから君は四番としてチームに貢献してくれと。


浜田

やはり枠にはめようとするのはいけないんでしょうね。


納庄

優秀な方というのは「枠」を嫌って大手企業を出てきますね。自分のやりたいことができないと言って辞める。 それはそれでこちらとしてもリスクはありますけどね(笑)。 でも経営者はリスクを取っていかないといけない。


浜田

それが部活のリーダーの役目ですからね(笑)。

SECTION.5

これからの社会、これからの企業

みんなで「多様性」を持ち寄って、
新しい組織や新しい価値をそこから創っていく、
そういう時代になっていくのかもしれません (浜田)


浜田

今回の人事制度構築プロジェクトを通じて、納庄社長が社員の方々と向き合うときのスタンス…なんでも聞きますという姿勢は素晴らしいと思いました。 これは専門的な言葉でいうところの「心理的な安全性」なんです。何を言っても大丈夫なんだという安心感をもって会社で働ける。 この安心感がとても重要で、社員の皆さんは新しいアイデアをぶつけてみようと思うかもしれないし、自分の足元からいろいろことを改善していこうと考えるかもしれない。 社長はそういう関係性を「家族」と呼んでおられますけど、否家族的な組織には逆に緊張感しかありませんから、余計なことはなるべくしない、言わない…という硬直した組織になってしまう。 だから、安心して働ける環境を提供できる会社というのは、これからどんどん強くなっていくと思いますね。

他方、働く人たちも、これからは自分の思いを伝えないといけないし、個人の事情をオープンにしないといけないと思うんです。労働条件を詰めるにはまず個人の事情を話さないといけませんからね。 それに、現場においても、子供がいますとか、親が認知症で介護が大変ですとか、特殊な事情があるならそれをオープンにしないと公平感という点でみんなが納得しない。 もう、そういうのを隠す時代ではない。もっと海外のようにできる範囲で自分のことをさらけ出して、そして互いに理解し合う、そういう時代だと思います。それって、まさに「家族」なんですよね。


納庄

そうなんです。抱えている事情が大きければ大きいほど、「家族的な経営」がそこには必要になってくるんです。 私は、たとえ当社の規模が今後拡大していくとしても、そういう考え方を持ち続けたいですね。


浜田

これからは、そういう会社じゃないと多くの人を活かすことができないと思いますし、 働く側も、プライベートな事情、状況を隠すのではなくて逆にみんなで持ち寄る、そういう社会になっていくのかなとも思いますね。


納庄

なるほど。自分たちで「多様性」を創り出していくわけですね。旧来の日本の社会・企業が苦手としていた部分も、そういう組織づくり、しくみづくりによって変えていけるかもしれませんね。

それにしても、セッションの冒頭で出たワード…経営者の思いを「翻訳」するのが人事制度…という部分、とてもわかりやすかったですね。 そして、人を活かす人事制度、人を成長させる人事制度、どれもとても興味深いお話しでした。

もうひとつプラスするなら、新しいことを生み出す人事制度…でしょうか。やはり会社というのは大きくなるほど身動きがとれなくなっていくんですね。 新しい商品を開発するにも、新しいサービスを開発するにも、まず横にいる上司を説得しないといけない。 それに、素晴らしいアイデアがあっても、通常業務に追われているなかではこれに別途取り組まなくてはいけない。集中できない。…こうした状況は、その人を本当に活かしきれていないと思うんです。

そこで、例えば社長直轄のベンチャー室のようなものを作ってチャレンジしていく。 もしそこから従来の枠を超える新事業が生まれそうなら、関連会社を作ってその人を社長にするとか、そういう飛び級の人事制度があってもいいのかなと。 会社としてより人を活かせるし、全体の成長にもつながる。組織のあり方はひとつだけではない。 その人たちの能力、できることに合わせて組織自体が変わっていける…そんなことを、今日の浜田社長とのセッションでは思いましたね。


浜田

昔なら人が組織にハマるかどうか…ということだったと思うんですけど、そうではなく、人の能力の多様性に着目すると、組織もまた多様であってもいいんですよね。 組織と人、どちらも固定的である必要はないんです。むずかしいけれども、おもしろい時代でもあるかもしれません。


納庄

そうですね。逆にチャンスがいっぱいありそうです。


[会場協力]東北大学大学院経済学研究科「地域イノベーション研究センター」
https://rirc.econ.tohoku.ac.jp/

対談後記

対談を終えて、【制度・システム】と【マインドの部分】のバランスについて改めて考えました。 制度が完璧でも、それを現場で扱う人々のマインドが閉鎖的であればうまく機能しないし、逆に、経営側が家族的な大らかさを持っていても、それを認めるシステムがなければ個人的な感情論になってしまう。
「形のあるものと無いものの融合」ができて初めて、ヒトを軸とした経営ができるのかな、と思いました。
浜田社長、ありがとうございました。

株式会社 ビルワークホールディングス
代表取締役社長
納庄国英